Embodiment of Supernumerary Robotic Limbs in Virtual Reality

論文概要

身体機能拡張として人工的に設計された余剰肢を付加することを目指した余剰肢ロボティクスの研究がある.新たな身体部位となる余剰肢ロボットシステムを構築する際には,システムを自分の身体のようにとらえ,認知的負荷を抑制した状態(認知的透明性)を保持したまま扱えるようになることが重要となる.このような,生来もつ身体ではない対象に対して自分の身体として捉えられるようになる知覚変化は一般に「身体化」と呼ばれ,認知科学や神経科学の観点からも検討されている.これまで「身体化」の議論において「代替・転写」や「延伸・縮小」による身体機能拡張に伴う知覚変化の検討は多く報告されてきた.一方で,余剰身体部位の「付加」による機能拡張に伴う知覚変化を検討した先行研究は少ない.そこで,本研究ではVR環境下で動作する余剰肢ロボットシステムを開発し,その装用により,人工余剰肢が自分の身体の一部として捉えられるようになるのか,また,その時に自己近傍空間に関する知覚変化が起こるのかについて評価した.
 
 

特筆すべき研究成果

余剰肢ロボット装用後に実施した身体感覚の主観評価から,装用学習後に余剰肢ロボットアームを身体化できたと思われる主観評価スコアの結果が得られ,これを「余剰肢感覚」として新たに説明を試みた.また,余剰肢周辺に生じた視触覚統合の知覚変化(自己近傍空間)と自分の腕が増えたと感じた主観評価(「余剰肢感覚」)のスコアに正の相関が見られた.付加による機能拡張に伴う知覚変化では,自己近傍空間と余剰肢感覚における相互関係を新たに描出できた.
 

今後の展望・応用+社会実装の可能性

本研究結果から余剰身体部位の付加による機能拡張を通じて,参加者が自分の生来の身体部位とは異なる新たな身体部位を得た感覚が生起された可能性を示唆した.この感覚の生起は,余剰身体部位の付加による機能拡張を目指す余剰肢ロボットシステムにおける認知的透明性を実現する上で重要な設計要素になりうる.また余剰身体部位の付加という要素が加わったことで認知科学における身体化を細分化して議論することの重要性を提示し,さらに,これらの知見から新たな身体システムの構築機序を記述できる可能性を示唆した.
Ken Arai, Hiroto Saito, Masaaki Fukuoka, Sachiyo Ueda, Maki Sugimoto, Michiteru Kitazaki, Masahiko Inami
Scientific Reports
DOI: TBD