感情価が原始的同情に及ぼす影響

論⽂概要

社会において,他者の感情を推定・理解すること,つまり相手に共感することは,重要である。苦境にいる他者への共感は同情と呼ばれ,我々は苦境にある他者を慰めるために近づいたり,助けたりする。前言語期の乳児も攻撃者と犠牲者のようにぶつかって動く幾何学図形の運動を見ると,犠牲者に近づくことが知られている。これは原始的同情と呼ばれ,成人でも観察されている。しかし,成人における原始的同情に気分のような他の要因が影響するかは明らかではない.そこで本研究では,実験参加者自身の気分の感情価(ポジティブ,ネガティブ)が原始的同情に与える影響をオンライン実験で調べた。
 
 

特筆すべき研究成果

本研究では、まず音声刺激を用いてポジティブ及びネガティブ感情を生起させた。その後,攻撃図形と犠牲図形からなるアニメーションを観察し,どちらの図形をより好むかを応答した。その結果,ポジティブ及びネガティブ感情どちらの場合も,攻撃図形よりも犠牲図形を好むことが明らかになった.したがって,感情価に関わらず,原始的同情が生起することが示唆された。
 

今後の展望・応⽤+社会実装の可能性

苦境にある他者に対する共感である同情は、前言語期の乳幼児でも成人でも見られる人の特性であり、人の気分にも影響されず頑健であることが示された。これが、社会における向社会性の維持に貢献している。自在化身体を獲得した他者に対しても、向社会性が維持されることが期待される。
 

主要成果論⽂

松田勇祐, 本田葉輝, 井上康之, 鹿子木康弘, 佐藤德,板倉 昭二, 北崎充晃
基礎心理学研究
10.14947/psychono.40.25